肥大型心筋症 Hypertrophic Cardiomyopathy,HCM
■概要 肥大型心筋症は高血圧症や大動脈弁狭窄症などの心肥大の原因となる疾患を認めないにもかかわらず、心筋肥大を呈する疾患の総称 •閉塞性肥大型心筋症(HOCM) •非閉塞性肥大型心筋症(HNOCM) ■病因•病態生理 •病因としては、家族歴などの遺伝的素因や環境因子などが関与するとされているが不明な点も多い •病態としては、著しい心筋肥大とそれにともなう左室拡張機能障害が主体である。 •心筋肥大は非対称性の心室中隔肥大(ASH)が特徴であるが、ほかに対称性肥大、心尖部肥大、心室中部肥大などを認める場合がある。 •心筋の肥大は、心筋虚血、左室内圧較差をきたし致死的不整脈などの突然死の要因となる場合がある。 •左室駆出率(LVEF)は、正常もしくは亢進するとされている。 •臨床経過中において約10%前後の症例は、左室内腔の拡大とびまん性の収縮不全をきたし、拡張型心筋症様の病態に移行する拡張相肥大型心筋症(DHCM)を発症する ■症状 •労作時息切れ •動悸 •めまい •失神 ■診断 a. 心電図:陰性T波、R波の高電位、異常Q波、特に心尖部肥大型では、巨大陰性T波をV3-6に認める。また心房細動、心室性期外収縮などの不整脈を認める場合がある。 b. 心エコー図検査:局在性の心肥大を特徴とし、全周性の心肥大をきたす高血圧症や大動脈弁狭窄症と鑑別される。非対称性中隔肥大(ASH)や僧帽弁収縮期前方運動(SAM)を認め、左室流出路狭窄をきたす場合は、左室内圧較差が存在し、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と診断される。また、大動脈弁収縮中期半閉鎖や僧帽弁閉鎖不全症の存在を認める場合がある。 c. 心臓カテーテル検査:冠動脈疾患の除外、左室内圧較差や左室形態の評価に有用。心筋生検により、心筋細胞の錯綜配列(disarray)や肥大した心筋細胞を示す場合がある。 ■治療、経過•合併症、予後 a. 薬物治療:β遮断薬、カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)が有用➡ともに心筋収縮力を減弱させ流出路狭窄による左室内圧較差を軽減させることや、拡張障害の改善に効果がある。Ia群抗不整脈薬剤(ジソピラミド、シベンゾリン)も左室内圧較差の軽減に効果があるとされている。心不全の増悪や突然死の予防に不整脈のコントロールは重要。致死的心室性不整脈に対しては、III群抗不整脈薬であるアミオダロン、または植え込み型除細動器(ICD)の適応を検討する。 b. 非薬物的治療:薬物抵抗性の場合は、左室流出路狭窄の改善を目的に、DDDペーシング、心室中隔心筋アブレーションが選択される。外科的治療として左室心筋切開•切除術、僧帽弁置換術なども選択されるが、長期予後の有用性について薬物治療も含め今後の検討が必要 ●予後:特発性心筋症の中では比較的良好とされるが、突然死を認める例がある。 • 突然死には、致死的不整脈の関与が多い • 危険因子:突然死の家族歴、若年発症例、心室頻拍、左室流出路狭窄の存在 • 拡張相肥大型心筋症(DHCM)に移行した症例は、難治性心不全の状態に陥り予後不良とされている。 • 拡張相肥大型心筋症はβ遮断薬を中心とした拡張型心筋症の治療が必ずしも奏功しないとされる。 ■患者指導 自覚症状に乏しいため、患者への十分な説明をして疾患を認識してもらうことが重要。 突然死の予防が重要。特に心不全症状を認める場合や家族歴を有する場合は、日ころの水分管理に心がけ、急な労作や激しい運動は避けるように指導する。