心不全

体循環と肺循環

心臓のつくりと血液の流れ

うっ血性心不全

■概念:心不全とは、心機能が低下して、組織が必要とする血液を全身に送ることができず、臓器の代謝や機能に異常をきたした病態である。
•基礎疾患をもつ心臓では予備力が低下し、そこに何かしらの増悪要因が加わると心機能が低下して心不全症状(倦怠感、傾眠、呼吸困難、体重増加、浮腫など)が出現

心不全徴候

●増悪因子
①感染症
②貧血
③不整脈
④血圧上昇
⑤生活•環境因子(運動、食事、水分、情動ストレス)

●心不全の分類
①急性と慢性
②左心不全と右心不全
③収縮不全と拡張不全
④高拍出性と低拍出性
⑤前方不全と後方不全

A 右心不全

    右心系の機能不全にともなう一連の病態のことであり、静脈系のうっ血が主体となる。この場合、液体が過剰に貯留するのは体全体、特に下肢であり、心不全徴候としての下腿浮腫は有名である。その他、腹水、肝腫大、頸静脈怒張など、循環の不良を反映した症状をきたす。
    聴診では右心性3音を聴く
    心電図では右軸偏位や右室肥大を認める
    胸部X線写真では、心拡大陰影(右第1, 2弓の突出)
    右心不全の多くは、左心不全に続発して生じるかたちとなる。左心不全で肺うっ血が進行し、肺高血圧をきたすまでに至ると、右室に圧負荷がかかり、右心不全を起こす。
    右心不全のみを起こすのは、肺性心、肺梗塞など、ごく限られた疾患のみである。

B 左心不全

    左心系の機能不全にともなう一連の病態のことである。左心系は体循環を担当することから諸臓器の血流低下が発生するほか、心拍出量低下による血圧低下、左房圧上昇による肺うっ血が生じる。肺うっ血は、肺が左心系の上流に位置することから出現するものである。
    血圧低下の症状:頻脈、チアノーゼ、尿量低下、血圧低下、手足の冷感、意識レベルの低下
    肺うっ血の症状:肺高血圧、胸水、労作時呼吸困難、頻呼吸、発作性夜間呼吸困難、咳嗽、チェーンストークス呼吸、湿性ラ音
    胸部X線画像においては、①心陰影の拡大、②肺うっ血、③Kerley’s B lineが見られる。
    左心不全は、さらに肺血流の停滞を経由し、右心系へも負荷を与えるため、左心不全を放置したとき、右心不全を合併するリスクが高くなる。特に心不全における呼吸困難は、横になっているよりも座っているときの方が楽である、という特徴を持つ(これを起座呼吸(きざこきゅうorthopnea)という)

心不全のエコー所見

■心不全の原因

①冠動脈疾患
冠動脈

冠動脈の主なものを示します。図のように3つの系統がある。
さまざまな疾患が心不全の原因となる。心臓そのものの病気も、心臓以外の病気も心不全を起こすことがある。

②心臓弁膜症
③先天性心疾患
④不整脈
⑤心筋炎
⑥心筋症
⑦肺高血圧症
⑧収縮性心膜炎

心不全の原因となる、心臓以外の病気
心臓以外の病気が原因となって心不全が起こるのは以下の病気の場合などがある。
①貧血

    貧血は血液の中の赤血球(図)が足りない状態。酸素を全身に運ぶ赤血球が不足すると、心臓に負担がかかる。貧血では血液が運べる酸素量が減るため、心臓は血液拍出の回転数を上げて酸素運搬量を維持しようとする。次第に心臓は疲れて心不全になる。

②甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症

    甲状腺ホルモンの過不足が心臓の適切な状態を変化させて心不全になる。このホルモンが多すぎれば心臓は刺激が多すぎて無理をし、ホルモンが少なすぎれば刺激も少なく心臓は力が出なくなる。

③腎不全

    体内の水分を十分には除去できないため、血液量が増え、心臓に負担がかかり心不全となる。

④高血圧

    高血圧も心不全の原因となる。高血圧では、それに打ち勝つため左心室の壁が厚くなり(肥厚)、硬くなり、拡張機能障害となって十分な血液を取り込めずに心不全となる。

⑤加齢

    加齢によっても、同様の拡張機能障害が起こることがある。

⑥その他の原因

    アミロイドと呼ばれる異常たんぱくが心筋に沈着して心不全となるアミロイドーシスや、ある種の寄生虫などでも心不全は起こる。

■病態生理

●心不全における代償機序
心筋は虚血,高血圧,炎症などの種々の負荷がかかると,心機能を保持するために種々の代償機序が働く.この代償機序には神経体液因子の亢進と心肥大がある.神経体液因子は心筋のみならず全身の血管,臓器に作用して,運動耐容能低下,不整脈,突然死等のいわゆる心不全が原因となる症候群の形成に関与する.
循環器系に限らず,生体は様々な神経体液性因子によって巧妙かつ複雑に制御されホメオスターシスを保っている.これらの神経体液性因子は大きく分けて,陽性変力作用,陽性変時作用とともに,血管収縮作用を有し,心筋細胞にとっては肥大を惹起する方向に働く「心臓刺激因子」と,変力作用,変時作用はほとんど認められず,血管拡張作用と心筋細胞肥大抑制作用や線維化抑制作用を有している,いわゆる「心保護因子」の2つに大別できる.正常状態ではこれらの相反する作用の神経体液性因子のバランスが保たれているが,心不全に陥ると,その初期には心拍出量を増加させ重要臓器への灌流圧を維持する為に,心臓刺激因子が活性化され,心不全は代償される.しかし液性因子の活性化が長期に,また過度に続くと,悪循環が始まり顕性心不全に陥る.
また,近年の慢性心不全を対象にした大規模臨床試験の結果,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系の経路を遮断することによって,心保護作用を増強させる薬剤のみが慢性心不全の予後を改善することが証明されるに至り,慢性心不全の発症進展には,神経体液性因子のバランスの破綻が最も重要な因子であることが証明された.
表3には,代表的な神経体液因子とその正常値を示しているが,その中で心臓刺激因子は,ノルエピネフリン,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン,バソプレシン,エンドセリン,種々のサイトカインであり,心保護因子の代表は心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP),脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)がある.アドレノメデュリン,内皮由来弛緩因子(NO),アデノシン,オピオイド-エンケファリンも心保護因子に属する可能性が高いが,その是非には今後の検討が必要である.

●心不全におけるポンプ機能の変化
左室圧容量曲線
Starling機序

収縮障害の圧容量曲線の変化:収縮末期圧容量関係が右下方にシフトする。
➡代償として拡張末期圧容量曲線の右下方へのシフト:左室の拡大、拡張期末期圧(=左房圧)の維持。Starling機序。
収縮障害

拡張障害の圧容量曲線の変化:収縮末期圧容量関係が左上方にシフトする:左室は拡大できない。拡張末期圧(=左房圧)の上昇
拡張障害

■治療

●生活習慣と心不全
禁煙、塩分の制限、ダイエット、ストレスの軽減など、生活習慣を改善する。心不全治療の基本で、症状を軽減し、心臓への負担を減らす。

●心不全治療薬
日本循環器学会心不全治療ガイドライン

心臓再同期療法(CRT)
心不全の治療に、心臓再同期療法(CRT)と呼ばれる新しい治療法がある。心不全の原因や種類には様々なものがあるため、すべての心不全患者さんが受けられる治療法ではないが、臨床的にも効果が立証された治療法である。この治療に使用する両室ペースメーカはペースメーカの機能を応用したものである。両室ペースメーカは、微弱な電気刺激を心臓の両方の心室に送り、心室全体がほぼ同じタイミングで、つまり「同期」して収縮するよう促し、心臓のポンプ機能を改善させる。

●心臓の手術
心不全の原因が心臓の弁の障害の場合、弁を修復するための手術や、人工弁にとりかえる手術が行われることがある。心不全が重症で、回復が不可能な場合には、心臓移植術が検討されることもある。

●不整脈の治療
脈拍が少なくなる徐脈や、心房細動などで脈拍が速くなる頻脈も持続すると心不全の原因となる。徐脈にはペースメーカが、頻脈は薬やカテーテルアブレーションで治療。

ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類

NYHA