ショック ■概要 ・ショックとは急性に発症する全身の循環障害である。 ・重要臓器や組織の機能維持に必要な血液循環が得られないため低酸素血症となり、細胞の代謝が障害を受ける症候群である。 ・ショックは早急に改善されなければ、不可逆性の細胞死による臓器障害が起こり、尿量減少、四肢冷汗、精神状態の異常などが生じる。 ➡多臓器がおかされて致死的な状態となる。 ・ショックの診断と病態を早期に把握し、全身状態の評価を行い、適切な処置を進めながら原因疾患の鑑別診断と治療を行うことが肝要である。 ■分類 ①循環血液量減少性(大量出血などによる) ②心原性(急性心筋梗塞などによる) ③閉塞性(心タンポナーデや肺塞栓などによる) ④血液分布異常性(敗血症やアナフィラキシーによる) ■病態生理 出血などにより体液量が減少しても血圧はすぐ低下するとは限らない。体液量の減少にともない心臓における血液が減ると、圧受容体反射により心拍数が増加して心拍出量が維持され、同時に末梢血管が収縮して血圧が維持される。さらに、レニン•アンギオテンシン•アルドステロン系の機能亢進により、細動脈の収縮や体液貯留が促進されて循環動態は正常に保たれる。これらの代償作用を上回って出血が急速であったり多量であったりすると、血圧は次第に低下していく。また、急性心筋梗塞にともない心機能が低下して心拍出量が減少した場合も、圧受容体反射や内分泌系の反応による血管収縮や前負荷の増加にともなう心機能の正常化などの代償作用により、血圧はすぐに低下するとは限らない。敗血症にともない末梢血管が拡張した場合、当初は心拍数が増え、心拍出量が増加して血圧は維持される。しかし、血管拡張が持続して、さらに、血管の透過性が亢進して血漿成分が血管外に移行するなどの変化が重なると、心拍出量を維持することが難しくなり血圧が低下する。 ■診断 診断基準(日本救急医学会が示す基準) 1. 血圧低下(必須) ●収縮期血圧90mmHg以下 ●平時の収縮期血圧が150mmHg以上の場合:平時より60mmHg以上の血圧下降 ●平時の収縮期血圧が110mmHg以下の場合:平時より20mmHg以上の血圧下降 2. 小項目(3項目以上を満足) ●心拍数100回/min以上 ●微弱な脈拍 ●爪先の毛細血管のrefilling遅延(圧迫解除後2秒以上) ●意識障害(JCS2桁以上またはGCS10点以下、または不穏•興奮状態) ●乏尿•無尿(0.5mL/kg•hr以下) ●皮膚蒼白と冷や汗、または39℃以上の発熱(感染性ショックの場合) ショックの5Ps 1. Pallor:顔面蒼白 2. Perspiration:冷汗 3. Prostration:虚脱 4. Pulselessness:微弱な速脈 5. Pulmonary insufficiency:呼吸促迫 ・通常、ショック患者では低血圧がみられる。また、過呼吸や頻脈を認める。ショックと診断したら、まず呼吸障害の有無を確認し、必要に応じて気道確保を行い、血圧の回復(収縮期血圧>90mmHg)につとめる。循環動態のモニターや動脈血ガス分析は必須である。 ・一般に、脈圧が小さく、四肢が冷たい場合は心拍出量の減少を考える。また、脈圧が大きく、四肢が温かい場合は血管抵抗の減少と心拍出量の増加が示唆され、感染症にともなうショックであることが多い。頸静脈の虚脱は血液量の減少を示唆し、頸静脈の怒張、奇脈1、奇脈2、心音の減弱がみられる場合は心タンポナーデの可能性がある。 ショックの診断、治療のフローチャート 意識レベル、呼吸状態、循環状態の把握、アナフィラキシーの有無を確認 ➡呼吸不全の有無をチェック ●呼吸不全あり➡気管内挿管 ●呼吸不全なし ➡鼻腔カニューレによるO2投与 ➡バイタルサインのチェック(意識、血圧、呼吸数、心拍数、体温など) ➡診断基準に基づきショックの判断をし、持続モニタリング(心電図、パルスオキシメーター、非観血的血圧測定、呼吸数、尿量など) ➡静脈路の確保、必要により動脈カテーテル留置、補液(乳酸化リンゲル液など)開始、血液生化学的検査、動脈ガスの採血、凝固•線溶系の検査、血液培養、エンドトキシン測定など ➡閉塞性ショックの有無を確認し、必要に応じた検査(胸部X線、心エコー、CTなど) ➡心原性ショック、循環血液量減少性、血液分布異常性ショックの可能性を考える。中心静脈カテーテルまたはSwan-Ganzカテーテル留置 ➡それぞれの病態に応じた処置、検査、治療を開始(体液補正、薬物治療による循環不全の治療、腎不全、DICなどの合併症の予防と治療) ■治療 ・典型的なショックでは頭部を低く、下肢を挙上するなどの処置が必要となる。 ・治療では心肺蘇生法と同様にVIP[ventilation(換気), infusion(補液), pump(循環)]が基本となる。酸素投与も必要となる。 ・循環血液量減少性ショックや血液分布異常性ショックでは輸液が最も重要である。急激な出血や外傷例では輸血が必要となる。 ・敗血症が疑われる場合は、広範囲スペクトルの抗菌薬の投与が必要とされる。 ・循環血液量を補充しても血圧がもどらない場合は、ドーパミンやノルエピネフリンの投与により心機能を増強させる。 ・アナフィラキシーショックの場合は、発症後5分以内の応急処置によって予後が決定される(golden five minutes)。アドレナリンの投与、輸液、ステロイド投与が重要である。また、喉頭浮腫など気道閉塞に対する緊急対処が必要となる。