心膜炎
■概念:急性心膜炎は種々の原因によって生じる心膜の急性炎症である。炎症が心外膜下の表在心筋に及び、心膜心筋炎の像を呈することもある。
■病因
a. 特発性
b. 感染性
ウイルス(コクサッキーB群、エコー、アデノ、ムンプスなど)
結核性
細菌(肺炎球菌、ブドウ球菌、連鎖球菌)
真菌
c. 自己免疫性
全身性エリトマトーデス、慢性関節リウマチ、強皮症、リウマチ熱
d. 代謝障害
尿毒症、粘液水腫
e. 急性心筋梗塞
f. 心膜切開術後症候群、Dressler症候群
g. 腫瘍性
原発性(悪性中皮腫など)
転位性(肺がん、乳がん、黒色種、リンパ腫、白血病など)
h. 放射線障害
i. 薬剤性
プロカインアミド、ヒドララジンなど
j. 外傷性■病態生理
心膜の炎症が心外膜の表在心筋に及べば心膜心筋炎となり、また、心膜に近接した胸膜に炎症が波及すれば胸膜炎をともなうようになる。
心膜液が急速に貯留した場合や大量になると心タンポナーデとなり、血行動態は悪化する。炎症が慢性化あるいは再発を繰り返すと心膜は肥厚、癒着し収縮性心膜炎に移行する場合がある。■症状
•胸痛:最も頻度の高い症状、胸骨裏面から左前胸部の刺すような鋭い痛みである。時に急性心筋梗塞と鑑別が難しいこともあるが、心膜炎では深呼吸や仰臥位で増強し、坐位や前屈位で軽減する特徴がある。
•急性炎症による発熱
•全身倦怠感
•筋肉痛■検査と診断
a. 聴診所見
•心膜摩擦音(friction rub):炎症を起こした心膜が擦れ合うことによって生じる音で引っ掻くようなあるいは擦れるような性状の雑音である。典型例では機関車様雑音とも称される。全例で聴取されるものではないが、聴取された場合の診断的価値は高い。一過性の場合が多く、炎症の改善とともに消失する。b. 胸部X線
•心嚢液が250-300ml以上になると心陰影は拡大するようになる。
•大量になれば胸部X線で心嚢液の存在を推測することは可能であるが、少量の心嚢液貯留を診断することはできない。c.心電図
•発症早期、aVRとV1を除くほぼ全誘導で、下に凸のST上昇が特徴的所見である。
•経過とともに上昇したSTは基線にもどり、T波は陰性化する。
•胸痛でST上昇を示す急性心筋梗塞は、ほぼ全誘導でST上昇を示すことはなく、また、上に凸のST上昇を示すことが鑑別となる。
•大量の心嚢液が貯留するとR波は減高し低電位差 (low voltage) となる。
d.心エコー図
•心嚢液貯留の診断に最も簡便で有用な検査法である。
•心嚢液貯留は心外膜側のecho-free spaceとして観察される。
•貯留液が大量になると心臓は心膜腔に浮いた状態となり、心基部を支点に振り子様の運動を示すようになる。e.その他
•炎症所見としてのCRP上昇や赤沈の亢進を認める。
•心筋炎を合併すると心筋逸脱酵素(CK, CK-MB)が上昇する。
•腫瘍性が疑われる場合は、心嚢穿刺により貯留液の細菌学的•病理的検査を行う。■治療
•特発性あるいはウイルス性:安静と対症療法でほぼ十分。胸痛が強い場合は非ステロイド性鎮痛薬を投与、無効時はステロイド
•心タンポナーデが生じたら、直ちに心嚢穿刺あるいは心嚢ドレナージ■経過•合併症、予後
•特発性やウイルス性では、しばしば発症の1~2週間前に感冒様症状が先行する。
•一般的に経過は良好で、ほとんどの場合は数週間で自然治癒。
•心タンポナーデや収縮性心膜炎への移行は稀。
•ウイルス性で心膜心筋炎の状態となっても心不全を生じることは少ない。
•結核性心膜炎の場合、診断や治療の遅れは予後の悪化や収縮性心膜炎への移行を招く。■患者指導
•急性心膜炎で最も一般的な特発性やウイルス性の経過は良好で、大部分は自然治癒する。
•約20%で数ヶ月後以内に再燃や再発する場合があるので経過観察が必要