心筋梗塞

心筋梗塞のメカニズム ■概要:冠動脈の閉塞により心筋が壊死に陥った状態を指す 急性心筋梗塞:冠動脈の閉塞により心筋が壊死に陥った状態を指す。 • 急性心筋梗塞 (AMI:Acute Myocardial Infarction) :発症から3日以内 • 亜急性心筋梗塞 (Subsequent Myocardial Infarction):発症から30日以内 • 陳旧性心筋梗塞 (OMI:Old Myocardial Infarction) :発症から30日以上 不安定狭心症と急性心筋梗塞は発生機序が同じであり、急性冠症候群と総称されている。 ■病因•病態生理•発生機序 • 冠動脈硬化があり、狭くなった冠動脈が粥腫(アテローム)の破綻により血栓を生じ、内腔を完全に閉塞し末梢の血管を遮断する。一定の時間(多くは15分以上)支配領域の心筋に酸素や栄養が供給されないと壊死に陥って心筋梗塞が発症する ■症状 • 急性心筋梗塞では前兆としての狭心症を有する場合は半数であり、残りは胸部症状がなく突然発症する。 • 本人が心筋梗塞である、あるいは心臓病であるという認識がなく、病院受診が遅れるケースもしばしば見受けられる。 • 狭心症よりも胸痛の持続時間が30分以上と長く、通常は数時間に及ぶことが多い。 • 冷汗や嘔気、嘔吐をともなうことが多い。 • 胸痛は頸部、顎、左肩、左上肢に放散することがあり、背部痛の場合もある。 • 糖尿病患者や高齢者の場合は胸痛の訴えに乏しく、呼吸困難、息切れ、失神などの非典型的な症状で発症することもある。 ■検査と診断 a. 安静12誘導心電図 • 典型的な急性心筋梗塞ではST上昇を認める。 • 超急性期にはST上昇に先行してT波の増高がみられる。 • その後の変化としてST上昇 • 2-3時間後にはQ波、さらに冠性T波(左右対称の陰性T波) • 心室壁のほぼ全層に及ぶ貫壁性梗塞の場合は典型的なQ波を認めるが、心内膜側のみが梗塞に陥った心内膜下梗塞ではQ波があらわれずに、ST低下や冠性T波のみである。 • 急性後壁梗塞ではST上昇を認めず、鏡面像としてV1, V2でST低下を認めるので注意が必要 • 右室梗塞は下壁梗塞に合併するが、右側胸部誘導のV3R, V4Rで1.0mm以上のST上昇を認めた場合に右室梗塞の合併を疑う。 • 下壁梗塞発症患者の場合は右室梗塞の合併の有無をみるために、右側胸部誘導もチェックする必要がある。 b. 心エコー図 • 冠動脈の支配領域に一致して心室の壁運動異常を認める。 • 心室瘤、壁在血栓、心室中隔穿孔、僧帽弁閉鎖不全、心嚢液貯留などの有無も確認する。 c. 運動負荷心電図 • 心筋梗塞急性期にはリハビリテーションが安全に行えているかを確認する目的で記録するが、通常の運動負荷試験のように最大心拍数まで負荷をかけることは禁忌である。 d. 心筋シンチグラム • テクネシウム(99mTc)ピロリン酸は急性期の梗塞部に集積し陽性画像(hot scan)として描出される。また、急性期が過ぎた時点ではタリウム(201Tl)製剤yは99mTc-MIBIを用いて、心筋の血流障害部位の取り込み低下や欠損像(cold scan)の程度により梗塞サイズが評価される。 e. 胸部X線写真 • 心不全がなければ異常を認めない。 f. 血液生化学検査 • 白血球数、心筋逸脱控訴(CPK, CKMB, AST, LDH, ミオグロビン, ミオシン軽鎖I, トロポニンT)の上昇、血沈亢進、CRP陽性を認める。 • 心筋逸脱酵素(特にCPKやCKMB)の経時的な測定により、心筋梗塞の大きさや経過などを把握できる。 • トロポニンTとIは非常に特異度が高く、発症3時間以上経過した心筋梗塞の診断に役立っている。 • H-FABP(=Heart-type fatty acid-binding protein 心臓由来脂肪酸結合蛋白)(ラピチェック®)より早期(約1時間半)で、感度、特異度の高いという15分間で診断できるものも市販されている。ただし腎不全患者などでは心筋のダメージと関係なくTnT、H-FABPともに陽性になることがあることが知られている。 • CK-MB:心筋特異性高い。心筋の障害の程度を反映する。 • 特異的でないが必ずみられる所見として、AST(GOT)、LDH、CK、白血球、ミオシン軽鎖 の上昇があり、それぞれ上昇し始めた時期は発症時間の予測に役立つ。 • 一般的な血液検査で異常を来す時間は、白血球 2~3時間、CK2~4時間、AST 6~12時間、LDH 12~24時間、CRP 1~3日、ESR 2~3日である。 g. 心臓カテーテル検査 • 急性心筋梗塞の診断や治療に最も重要な検査 • 急性心筋梗塞の責任血管(完全閉塞または高度狭窄)、側副血行路の有無、PCIやCABGの適応の決定などに重要な情報を与えてくれる検査 • 引き続いて再灌流療法を行うことが多い • 左室造影では心筋梗塞部位の壁運動異常(正常、低収縮、無収縮、奇異性運動、心室瘤)を確認するとともに、左室機能を評価 ■治療 • 酸素 • アスピリン投与(160~325mg) • ニトログリセリン舌下または口腔内噴霧 • モルヒネ静注(疼痛がニトログリセリンで改善しない場合) • ヘパリン静注やニトログリセリン静注 • 再灌流療法(血栓溶解療法•PCI) • 血栓溶解療法:組織プラスミノーゲン活性薬(t-PA: tissue plasminogen activator) • t-PAは、大動脈解離が疑われる症例、活動性の消化性潰瘍病変を有する症例、最近の外科手術や脳出血の既往例、重症高血圧症例では控える。 • 再発予防の内服薬:抗血小板薬、β遮断薬、高脂血症治療薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が有効。 • ACE-I(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)またはARB(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)は再発予防に加え、左室リモデリング予防(左室の拡張を予防)に有効 • 合併症を有しないケースでは、急性期から積極的に心臓リハビリテーションのプログラムにのっとって社会復帰を目指す。 • 運動処方は心肺運動負荷試験によって得られる嫌気性代謝閾値を参考にされることが多い。 ■経過•合併症 a. 不整脈 • 心室性期外収縮:大多数の例で認める • 心室頻拍、心室細動もときに認める(抗不整脈薬投与や電気的除細動が必要) • 洞停止、洞房ブロック、房室ブロック(ペーシング治療が必要な場合がある) b. 心不全:Forresterの血行動態分類を参照 c. 心原性ショック • 左室心筋の40-50%以上が壊死を起こすと、心原性ショックを合併するといわれている。 • 心室中隔穿孔や乳頭筋断裂でもショックになりやすい。 • 下壁梗塞に右室梗塞を合併した場合も血圧維持が困難で、大量の輸液が必要となることがある。 d. 心破裂(左室自由壁) • 前壁中隔梗塞で多い • 高齢、女性、責任血管の再開通ができていない、安静が保てない、血圧コントロール不十分な際に生じることがある • 緊急に破裂部の閉鎖術を行うが、救命率は低い e. 心室中隔穿孔 f. 乳頭筋不全•乳頭筋断裂 g. 心室瘤 h. 心膜炎 I. 梗塞後狭心症 ■予後 早期の再灌流療法が行われるようになり、冠疾患集中治療室(CCU: coronary care unit)管理下で治療を行うことにより、急性心筋梗塞の院内死亡率は10%以下になった。死因の大部分は心不全、ショックであり、心破裂や重症不整脈が15%前後を占める。しかし、来院時心肺停止例の多くは心筋梗塞に由来するものであるとされ、これを考慮すると急性心筋梗塞の全体の死亡率は30-40%前後と高い。 ■患者指導、ケアのポイント 冠危険因子の是正を行いつつ、再発予防につとめる。 心不全を合併する場合は、水分制限、塩分制限、体重測定などの指導が必要